みちしるべカレンダー7月の書です。
みちしるべカレンダーは黄檗宗青年僧会発行のものです。
『冷暖自知(れいだんじち)』
【読み下し】冷暖(れいだん)自(みずか)ら知る
「人の水を飲みて、冷暖自ら知るが如し」という言葉があります。水の冷たさや暖かさは、実際に飲んだり触れたりと自身で経験する他に知るすべはないという意味です。
私が黄檗山萬福寺の修行道場を出て、典座(てんぞ:台所のこと)で典座和尚(典座の長の和尚の事)のお手伝いをさせて頂いていた頃、よく普茶料理の一品である胡麻豆腐を練っていました。宝善院でも普茶料理を出しているので、今でも役に立っています。胡麻を液状になるまで磨ったものに調味料などを混ぜ、葛(くず)を入れます。それを大鍋で火にかけながら良い加減になるまでヘラやすりこぎ棒で練ります。その良い加減になったものを缶の容器に入れ、冷まし固めて胡麻豆腐が完成します。
典座に入りたての頃、練る作業を、当時の典座和尚に言葉で教わりながら、やってみるを繰り返していました。最初は、練る速さも分からず鍋から多くの胡麻豆腐のもとをこぼしたり、火加減が分からず鍋底を焦がしたりしました。また、容器に入れる時の胡麻豆腐のもとの良い加減というのも分からず、毎回教えてもらいながら作っていました。失敗したものはやり直しというのもありました。ただ、日を追うにつれ火加減・練り方・容器に入れる前のタネの加減などが分かるようになってきました。何がきっかけで理解が出来たかは覚えてはいないのですが、自分の中で納得することができる瞬間がありました。典座和尚からの説明がなければ胡麻豆腐の練り方を学ぶことは出来なかったと思います。ただ、その説明だけを受けただけでなく、自らそのものに触れ理解をしていくことが出来ました。何かの縁に触れ、その通りだと納得することが大切であり、これが『冷暖自知』のひとつの形であると思います。
わたしの典座での体験から『冷暖自知』という禅語を紹介しました。以前より紹介している禅語もそうですが、ただただそういう意味かと納得するのも大切ではありますが、なお理解を深めるには自らその縁に触れ、水の冷たさ暖かさを知ることが大切なのかもしれません。
水子供養と永代供養墓の京都のお寺
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宝善院(ほうぜんいん)
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